2011.12.18

支えるという誇り「電車屋赤城」

 最近めっきり読書のペースが鈍っています。これではいけないな、と思いつつもなかなかエネルギーを使う読書に気が向かないのが最近の傾向です。そんな中、買い物に行く電車の中で少しずつ読み進めてきたのが山田 深夜「電車屋赤城」です。
 神奈川県のどちらかというと泥臭い町を結ぶ「神奈電」。そこは新しい電車3000系の導入が進み、旧型車両の1000系は徐々に運用が減ってきていました。整備士の職人技が生きるこの車両をめぐり、様々な人々の人生を描いた作品です。


人生しかり、会社しかり。思うところいろいろです。

 電車の安全運行を支える人々を描いた作品というのは、これまでなかったように思います。その背景の中で、下請けの二代目社長やその恋人、ひきこもりから立ち直ろうとするその甥、自分の出生の秘密を探ろうとする青年、暗い過去を持つ赤城の上司や同僚など、魅力的な人物が多数出てきます。また、最後のエピソードは迫力満点。そして主人公の選択とは...。最近、こういうヒーローはなかなかいないだけに、とても新鮮です。

2011.11.18

お嬢さまの暴走?「流氷への旅」

 長編です。渡辺 淳一の「流氷への旅」、初版はちょっと古くて1973年ごろの作品です。
 竹内 美砂は大学を卒業し、見合いを勧められる24歳。彼女は周りの勧めのままに結婚し家庭に入ることに疑問を覚え、その答えを探すため流氷を見に紋別へと向かいます。そこで出会った流氷研究者、紙谷の振る舞いに戸惑いつつも魅かれていきます。彼の暗い過去を聞かされつつも、激しく恋われる美砂。やがて彼女は今までの自分には思いつかないほどの大胆な行動に出るのでした。


今の時代に読むと、主人公の考え方に違和感があるな...。

 うーん、どこが「大人の恋愛」なのかよくわからぬ...てな印象です。やっぱり70年代前半だけあって、家とか貞操感に対する考え方が保守的で、現代とは大きなギャップがあります。あと、主人公がどっちかというと「嫌な女」的行動を所々で見せてくれるので、あんまり幸せを応援する気になれん、というのがあります。
 結局のところ、この作品を一言で表すなら「お嬢さまの暴走」、これに尽きます。

2011.10.29

優しさと強さを秘めて「シグナル」

 久々に関口 尚の作品を読みました。作品は映画館を舞台にした「シグナル」です。関口氏の作品は、自分を信じて相手を思う気持ちを貫く主人公の姿がとても清々しく見えるのが特徴です。さて、この作品は...。
 経済的な事情で大学を休学している青年、恵介は栃木県足利市にある古い映画館「銀映館」で高額のアルバイト料に魅かれて働くことになります。その仕事とは映写技師であるルカのサポート。ルカは三年もの間映写室に閉じこもっているとのこと。彼女に徐々に興味を持つ恵介でしたが、彼女には辛い過去で心を閉ざしていることがわかってきて...。


爽やかだけどドキドキもある。終わり方もよかった。

 久しぶりに面白く読めました。今回も関口氏の本領が発揮されていると言えると思います。彼の書く作品の主人公は優しさを持ちつつも困難に立ち向かい、人を信じることができる人物が多いので、救いを感じます。一方で今作には人間性に大きな問題を持つ登場人物を配置し、それと恵介・ルカとの対比が強烈になされているので、ちょっと表現が極端な印象も持ちました。
 終わり方も読み手に想像を要求するもので、捉え方は人それぞれかもしれませんが、私はきっと明るい未来が開けたであろうと思いたいところです。

2011.10.27

同窓会はいつまでも終わらない「三月の招待状」

 熊本出張に持参した文庫本が角田 光代の「三月の招待状」です。ちょうど飛行機の往復と宿での風呂上がりで読み切りました。
 年下の恋人と同棲している充留、高校時代から付き合ったり別れたりを繰り返している裕美子と正道。卒業後にすぐに結婚した麻美と、将来を嘱望されつつも今は何もしていない宇田男。大学時代から十五年ものつき合いを続ける彼らには、それぞれに思うところがあって、小さな「事件」が起こっていくのです。


なんだか私にはよく分からないな。

 なんだか読むのに疲れた、という印象が先に立ちました。5人それぞれの事情があって「事件」が起こっていくのですが、事あるごとに集まって話をする。でも、その話というのはなんだか本筋とずれたところに進んでいくばかり、という風に見えるのです。三十台のいい大人が悩むことってこんなことなの? 
 なんだかよくわからないお話でした。

2011.10.08

後悔先に立たず...?「ラブソングが歌えない」

 喜多嶋 隆の「ラブソングが歌えない」が今回のお題です。
 湘南で3人組のバンドのリーダー格である高校生の水町涼は、音楽スタジオで自分の練習もしつつ雑用をこなしていました。そこにクラシック界の新星、藤井悠子が現れます。ちょっとしたことから交流が始まる2人。バンドに参加することになった悠子と曲を作りあげていく涼でしたが、その先にはいろいろと問題が発生して...。


毎作主人公が考えること、行動が一緒なので、デジャヴ感まんまん。

 「あぁ、やっぱりね」というのが第一印象。だいたい予想通りの展開。喜多嶋氏の小説ってどれを読んでも同じに見えるというのが最近の傾向でしたが、結局これもそのパターンから抜けていないです。主人公が妙に説明的で自分に酔っているように見えるため、読んでいて「笑止!」という突っ込みを入れたくなります(笑)。あと、いくらなんでもそんな奴はいないだろ、というのもアリ。
 読むんじゃなかった...というか、分かっていても選ぶ自分がどうかしてますね、特に最近。

2011.09.29

よくあるパターンをもう一捻り「地下鉄に乗って」

 九州旅行に持参した単行本が浅田 次郎の「地下鉄(メトロ)に乗って」です。これも先年映画化されていましたね。こちらも私は未見なので、予備知識なしで読み進めました。
 父親と、その事業の後を継いだ弟と疎遠な関係を持つ小沼真次は、ある日地下鉄の駅から出ると三十年前の世界へと迷い込んでしまいます。父親と衝突して自殺した兄や、その父親自身に出会うことになってしまいます。彼は愛人のみち子の協力を得て、少しだけ過去を変えようとするのですが、その結果は意外な形で現れることに...。


よくあるストーリーですが、こうつながるとは。展開の意外さに唸らされました。

 最初はあまり面白くはなかったのですが、中盤以降の思いもしない展開にぐいぐい引き込まれました。こういったタイムスリップで未来に影響が出るという話は珍しいものではありませんが、この作品はさらにもう一捻りがきいているので、読み終わった後には興奮収まらずという感じでした。
 少し展開が冗長に感じる部分もありますが、後半の展開はとにかく見事。お勧めできる一冊です。

2011.08.29

女の執念は恐ろしい?「夜明けの街で」

 熊本へ1泊で出張したので、その行き帰りの飛行機で一冊文庫本を読破しました。作品は東野 圭吾「夜明けの街で」で、私のチョイスとしては珍しくミステリー寄りの小説です。
 建設会社で主任を務める渡部は、派遣社員として同じ課にやってきた仲西 秋葉と不倫の関係になります。家族を騙しつつ徐々に関係が深まっていく二人でしたが、実は秋葉には暗い過去がありました。十五年前、彼女の家で強盗殺人事件が発生し、彼女はその容疑者の一人だったのです。目前に時効時効が迫る中、渡部には彼女への疑いの心と信じる心が葛藤して...。


最後の種明かしは「そう来たか!」という感じ。

 なかなか面白かったです。主人公の年齢が自分と近いこともあって、その心情は理解しやすい。「うん、確かにそうだなぁ」と思うことしきりでした。さて、最後のシーンはなかなか意外性があって読みごたえあり。もしそれが本当なら、秋葉はものすごく意思の強い女性だったということになります。一方で男性側から見るとこれがハッピーエンドなのかバッドエンドかは微妙なところ。そういう意味でみれば爽快感には欠けるかな...?

2011.08.05

モノ造りの良さを再認識「風をつかまえて」

 休みの間に読んだ小説は高嶋 哲夫「風をつかまえて」です。帯には「ポスト原発時代の...」と紹介されていて、いささか便乗商法の気がしないでもないですが...。
 大間 優輝は母と仲間の死を機に実家の鉄工所を飛び出し、あちこちで働きながら生計を立てていました。ある時札幌で幼なじみの由紀子と再会し、一度実家に戻ってみる気になります。一方、実家では町が思いつきで発注した風車を形にすべく、手探りのモノ造りが始まろうとしていました。優輝はそれに巻き込まれる形で、やがて風車を立てることにのめり込んでいくのでした。


エンジニアリングの奥深さをちょっと軽く描きすぎのような気もしますが、楽しめました。

 個人的にはモノ造りの良さを再認識させてくれる、いい作品だと思いました。ただ、設計に対して素人同然の主人公が周囲みんなに評価されるものをいきなり生み出せるというのは、ちょっとエンジニアリングの奥深さを軽く描きすぎではないかな、という思いもチラリ。ただ、一つの目標に向かって人々が動いていく姿はなかなか感動的ではあります。これだけの規模のモノ造りでは、一人ではできないというのは本当なので、そこがリアリティを演出してくれているのでしょう。原発うんぬんはともかく、いい作品です。

2011.07.22

封じてきた思いをさらけ出す時「月光の夏」

 今週の作品は毛利 恒之の「月光の夏」です。
 終戦2ヶ月前、代用教員として佐賀の鳥栖小学校にいた吉岡公子は、近くの基地から来た特攻隊員二人の訪問を受けます。彼らの願いは出撃前に思い切りピアノを弾かせて欲しいというもの。二人はそれぞれベートーベンの「月光」と「海ゆかば」を弾いて基地へと戻っていきました。それから四十五年が経ち、公子は壊れて捨てられることになったピアノの前でその出来事を周囲に語り、ピアノの保存を呼びかけます。が、その話がやがて思わぬ事態を呼ぶことになるのでした。


実話を元にした作品とのことです。

 さまざまなところで触れられていますが、この話は実話を元にしているそうで、実際にそのピアノは鳥栖市で保存されているそうです。特攻を題材にした作品であると、どうしても「戻らなかった者」にスポットが当たるのですが、一方で「戻らざるを得なかった者」がその後どうなったかについては語られることがありません。この作品はその暗い部分のさらに裏を描いていて、個人的には新しい発見がありました。
 歴史はいくら掘り下げてもきりがありません。

2011.07.15

ラジオを通じてドラマがつながる「引き出しの中のラブレター」

 新堂 冬樹の「引き出しの中のラブレター」を読みました。数年前に映画化されたようですが、そちらは未見のため作品に触れるのはこれが初めてです。
 J-WAVEでラジオパーソナリティを務める真生は、解りあえないまま亡くなった父や、仕事を捨てて恋人と家庭を持つかどうかで悩む日々を送っていました。そこに「笑ったところを見たことがなく、最近父親と上手くいっていない祖父を笑わせたい」という函館の高校生からの投書が舞い込みます。それをきっかけに、彼女は新しい企画を思いつくことになります。恋人と別れ、シングルマザーになろうとする妊婦、もう一度夢を追ってみようと思い立つOL、友人に裏切られ、夢を信じることができなくなってしまった女の子、真生の番組を楽しみにしているタクシー運転手たちが、それぞれの思いをラジオを軸につなげていくのでした。


思いもかけない登場人物たちのつながり。サプライズ満載。

 ちょっとベタな感じはしますけど、思いもかけない登場人物たちのつながりに驚きました。また、それぞれがラジオを通じて自分の想いを正直に語るというシチュエーションは、言いたいことを正直に言えなくなった現代社会に対する数少ない「救い」となっていることを教えてくれます。最近、私もインターネットでラジオを聴くようになったので、こういうところにも注目して今後は聴いていきたいな、と思えました。

2011.07.07

スケールは大きいが...「日輪の遺産」

 この夏、映画化される作品の原作です。浅田 次郎の「日輪の遺産」を読み終えました。太平洋戦争終戦の五日前、近衛師団に所属する真柴少佐は軍上層部からある極秘任務を命ぜられます。それはかってマッカーサーがフィリピン独立の資金として蓄えた財宝を、戦後の日本の復興のために秘匿するというもの。真柴は大蔵省から出向してきた小泉中尉と、任務のためにつけられた曹長との3人で任務に取りかかります。しかし、その先には非情な運命が待っていたのでした...。


この夏、映画にされる話題の原作。雰囲気が重いが、どこかで読んだ気も...?

 作者が得意とする近代ミステリー調の作品でした。舞台は狭いのでスケール感はあまり感じられませんが、史実を上手く組み合わせて「そういうこともあったかも」と思わせる構成となっていて、夢中で読み進めました。一方、登場人物が意外なところでつながっていたりと、色々なところに伏線も張ってあって唸らされました。
 一方、作品の雰囲気は「シェエラザード」に非常によく似ているので、「こんな雰囲気のシーンあったな」と思うことも多々ありました。そういう意味ではシェエラザードの方が時代背景の描写が細かかったので、私はこちらの方が読んだ充実感がありました。

2011.07.06

別に夏でなくてもいい話?「夏休み」

 薄い(注:厚みが...ね)小説を一冊読みました。中村 航の「夏休み」です。この作者、最初に読んだ一冊「100回泣くこと」があまりにもインパクトが強かっただけに、それを超える作品を待ちつつも、なかなかそれが満たされない歯がゆさがあります。さて、この作品は...?
 都営住宅当選を機に結婚したマモルとユキ。ある日、ユキの友人である舞子が、彼氏である吉田くんを連れてきたところから物語は始まります。カメラの分解が趣味の吉田くんでしたが、ある日置き手紙を残して家出。そのことが2人+2人の関係にちょっと変化をもたらすのでした。


意外な展開に驚きました。この表紙絵も伏線ですね?

 なんだかよく分からないままに終わって死まった感じです。あまり登場人物が印象的な活躍(?)をしてくれなかったり、最後の盛り上がりシーンが冷静に考えると結構くだらないないようだったり...。私には「謎」ばかりが残る作品でした。最後に一言、「別に夏休みでなくてもいいでしょ」というのがすべてかも。

2011.06.26

色々な顔を持つ面白さに引き込まれた「陽だまりの彼女」

 梅雨時は読書のペースが上がります(笑)。今度の作品は初めての作家、越谷 オサムの「陽だまりの彼女」です。
 広告会社に勤務する奥田浩介は、仕事で訪問した会社で中学生時代の同級生、渡来真緒と再会します。中学生時代、彼女はそのマイペースさと成績の悪さで孤立し、いじめにあっていました。そのいじめに嫌悪感を露骨に示した浩介も周囲から孤立し、結果的に浩介と真緒は話す機会が増えていたのでした。中学三年の時に浩介が隣町に転校したことでその関係は一旦断ち切れたのですが、10年ぶりに再会した彼女はとても魅力的な女性に変身していて、さらに浩介に対して変わらぬ甘えを見せて...。


意外な展開に驚きました。この表紙絵も伏線ですね?

 久しぶりに"楽しく"作品を読めましたが、正直なところ意外な結末に驚きました。中盤から終盤にかけて、色々なところで何気なく触れられている話が、重要な伏線となってラストシーンにつながっていくのですが、その伏線の張り方が非常に周到。思わず唸ってしまいました。中盤まではただのお気楽カップルの話か?というほど能天気な話ですが、読んでいるうちに二人を応援したくなってきました。ところが、あることを境にファンタジックな世界に移行してくるのですが、その変わり身も唐突感なく行われているのは見事です。
 基本プロット自体は古典的と言えるようなものですが、それを現代風にアレンジしたと考えればなかなか面白い作品です。

2011.06.20

事実を積み重ねて真相に迫る「聖職の碑」

 3日連続で文庫本を読破、作品は少し社会派、新田 次郎「聖職の碑」です。新田 次郎といえばやはり山を舞台にした作品群ですね。「アラスカ物語」「八甲田山死の彷徨」「孤高の人」は私も夢中になって読みました。
 大正二年の夏、中箕輪尋常高等小学校の教員、生徒と青年会員の37名が修学旅行で伊那駒ヶ岳に向かいました。しかし天候の急変により尾根付近で遭難、校長の赤羽をはじめ11名が死亡する事故が発生してしまいます。そのことを刻んだ「遭難記念碑」が今も山の稜線に立っているのですが、なぜ慰霊碑や鎮魂の碑ではなく記念碑が立てられたのか。当時の教育界の迷いを背景に描いています。


八甲田山と同じような展開ですが、こちらの方の背景が奥深いです。

 どうしても事件の成り立ちから「八甲田山 死の彷徨」と内容的にかなりの部分が被ります。なぜ遭難が起こったのか、その引き金は何だったのかを克明に描いており、あまりの迫力に一気に読み進んてしまいました。さらに、実はこの作品で本当に面白かったのは巻末に収録された「取材記・筆を執るまで」です。取材で知った証言をもとに、様々な考証を入れて人物、考え方、そして場面を作り出していく、記録文学に長けたこの作者の凄さがわかります。

2011.06.19

読んでいてイライラした「風花」

 今回の作品は川上 弘美「風花」です。
 結婚7年、33歳の主人公、のゆりはある匿名電話によって夫の不倫を知ることになります。ところが夫の卓哉はのゆりにまっすぐ向き合おうとせず、のゆりも何らかの結論を出すのを先送りします。一体、この夫婦はどういう選択をすることになるのか...?


読んでいてあまりの展開の遅さにイライラしました。

 何だ、これ?というのが第一印象。あまりに物語がのらりくらりとしているので、読んでいてイライラしてきました。事態が動いても何もしない主人公、はっきりとものを言わない夫。それを取り巻く人物もなんだか適当な人物ばかり...という感じで、何も印象に残らず終いでした。帯にかいてある内容と、あまりに落差のあるラストシーン...いったい何だったんだ?

2011.06.18

一体、誰が誰を?「東京公園」

 買い物への往復で文庫本を一冊読みました。小路 幸也「東京公園」です。
 カメラマン志望の大学生、圭司は亡き実母が愛用していたカメラを使って、さまざまな家族の写真を撮り続けていました。ある日公園で気に入った被写体、百合香を見つけた彼でしたが、その夫から奇妙な依頼を受けます。その内容は「妻を尾行して写真を撮って欲しい」...。娘を連れて東京の公園をまわる百合香を圭司は追いかけますが、同居人のヒロや幼なじみの女の子、富永、血のつながらない姉の咲実を巻き込んで、気持ちに変化が表れていくのでした。


静かな時間が流れていく...そんな作品です。

 上品な作品、という印象です。何より登場人物が個性的。展開的には「ええっ?」と驚くところもあって、なかなか面白かったです。ただし「ちょっとした謎」が意外に単純すぎるかな...というのが若干残念なところ。全体的に激しいところはないので、ゆったりと静かな時間の中に物語がある、という印象でした。ただ、最終的に落ち着いたところが見当たらないので、個人的にはちょっと不満もありますが...。
 写真のように、これを原作にした映画が公開されたようです。魅力的なキャストが揃っていることもあり、こちらも見てみたくなりました。

2011.06.12

業に苦しむ人間の姿「水のなかの螢」

 毎年のことですが、梅雨の間は出掛けるのが億劫になります。そんな時間を埋めるのが読書です。今日の本は池永 陽の新刊「水のなかの螢」です。
 大学生の小峰 俊彦は三十九歳の人妻、由紀と不倫の関係を持っていましたが、あることを彼女から告白されます。それに苦しむ俊彦でしたが、ふとしたことから同じ苦しみを抱えた女子高生、螢と知りあいます。彼女に「一緒に死んでほしい」と言われ、それを受け入れてしまいます。そんな彼の周囲には様々な業を抱えた人間が、それぞれの苦しみを持って生きていたのでした。


「でいごの花の下で」の衝撃が蘇りました。

 この作者の作品で印象的だったのは「でいごの花の下で」でしたが、この作品でも「業」に苦しむ人間たちが描かれています。クライマックスに向けて次々と明らかになっていく主人公の周りの人間の苦しみと再生に息つく間もないほど引き込まれました。最後はちょっと拍子抜けしましたが...。
 これほど真っ正面に「死」というものに向き合う作品は、そうそうないでしょう。重いです。

2011.06.01

短すぎて印象が残らない「あの空の下で」

 短編集を読みました。普段、印象に残りにくい短編は避けているのですが、今回選んだ理由は表紙にあります。この吉田 修一の「あの空の下で」は、ANAの機内誌「翼の王国」に連載されていたものだからです。2007年から翌年にかけて載っていた作品(短編+エッセイ)18編が収められています。


飛行機旅をテーマにした作品が多いかと思いきや...?

 機内誌掲載ともなると連載というわけにもいかず、1編が約10ページほどしかないこともあって、一つ一つの作品があまり頭に残りませんでした。感情移入できるものも多くなく、ちょっと期待外れかな。もうちょっと旅の要素を強くした方が私は良かったと思うんですけど。やっぱり読むなら長編がいいなぁ、と再認識した次第です。

2011.05.28

懐かしの昭和テイスト「夏を拾いに」

 森 浩美の「夏を拾いに」を読み終えました。この作者の作品は初めてです。
 東京でサラリーマンである主人公、文弘は息子にあるひと夏の出来事を語ります。小学生の頃、仲良しだった雄ちゃん、つーやんと一緒に遊んだ毎日。何か大きな冒険がしたいと、転校生の高井を巻き込んで不発弾探しを始めます。さまざまな困難(?)や邪魔を乗り越えて、少年たちは身近な冒険をしていきます。果たしてその結末は?


なんだか心地よい懐かしさに包まれました。

 なかなか面白かった。少年時代、夏休みに味わったドキドキ・ワクワク感を見事に表現していますね。読み進めながら「自分にもこんなことあったなー」と思い出が蘇ることもありました。何より、このころって小さなことでも「冒険」してみたくなるものです。友達との楽しいやりとり、家族との関係など、古き良き昭和の群像をさわやかなタッチで描いたこの作品、おすすめです。

2011.05.15

お互い再生の物語「風待ちのひと」

 これも成田空港で買った本ですが、ボリュームが多く出張の間には読み切れませんでした。そこで日曜日の午後の時間を使ってゆっくりと読み終えた次第。作品は伊吹 有喜「風待ちのひと」です。
 仕事と家庭のストレスで心を病んでしまった主人公、哲司は療養のために亡くなった母が住んでいた紀州の邸宅を訪れます。そこで出会ったのが同じ年の喜美子、彼女もまた息子と夫を失い、傷ついた心を抱えていました。音楽という媒体を通して交流していく二人は、お互いの心を再生へと導いていくのでした。


同じ苦しみを抱えた者同士は、痛みを共有できるのか。

 出だしはどうなるかと思ったのですが、中盤から一気に正直な心が開放されて、本当の交流が始まったように見えました。あと良かったのは、登場人物が少ないもののそれぞれが強烈な個性を持っていて、嫌みな人がいないことでしょうか。それぞれの思いがラストシーンに結実していったのは見事です。
 この作者、これがデビュー作だそうですが、いきなりこれだけの心理描写ができるとは、凄い。今後どんな作品が上執されるのか、とても楽しみです。

2011.05.08

最後に語るべき言葉はひとつ。「静かな爆弾」

 首都圏に戻るまでに1冊文庫本小説を読破しました。吉田 修一の「静かな爆弾」です。
 テレビ局で番組を制作する主人公、早川俊平。彼は家の近くの公園で耳の不自由な女性、響子と知りあいます。やりがいのある仕事で多忙を極める中、彼は静かな世界で暮らす彼女に徐々に惹かれていきます。やがて恋人となる二人でしたが、日常生活の中で時折感じる感覚の違いに、俊平はとまどいを隠せなくなります。そして、彼女との約束を振り切って出掛けた出張の後に彼を待っていたものは...。


レインツリーの国もそうでしたが、考えさせられるシーンが多かった。

  昔見たauのCM「君ノトナリ、イイデスカ?(「最後のメール」篇)」を思い出しました。
 久しぶりに魅力的な登場人物に出会えたという感じがしました。ヒロインの響子は自分の不自由な部分を充分に理解して生きていますが、それ故に少し違ったものの捉え方や行動が表に出てしまいます。そういったところが主人公が響子を愛おしく感じることにつながっている反面、人と人との関係の基本である「伝える」ということの本質を考えさせることになっているのでしょう。さて、個人的には明かされなかった理由があった分だけすっきりとした結末には思えませんでしたが、最後に彼女に伝えるべき言葉は私もあれしかないと思います。
 ちょっとだけ残念なのがタイトル。もう少し「言葉」にこだわったものだったら。もっと良かったのでは?

2011.05.02

静かなひとときが楽しめた「余白の愛」

 初めての作家に手を出してみました。小川 洋子の「余白の愛」です。「博士の愛した数式」で有名な著者ですが、これは初期の作品だそうです。
 主人公である「私」は家庭や仕事のストレスから突発性難聴を患いました。その病気をテーマにした座談会で、彼女は速記者のYに出会います。彼の指からは言葉が心地よく流れ、彼女はそれにすっかり魅了されてしまいます。座談会の後に再会した二人でしたが、「私」は彼に一つの願い事を話しました。


なんだかよくわからなかったな...。

 聴覚をテーマにした作品だけあって、全編にわたって「静かな」時間が流れていて、ゆったりと読むことができました。登場人物も少ない上、場所も少ないので落ち着いたストーリー展開です。ただ、現実と過去が行きつ戻りつするせいで、話の流れが非常につかみにくいのも事実。美しい結末ではあれど、ちょっと強引かなぁとも思いました。

2011.04.19

これは一体なんだ?「ディスカスの飼い方」

 海外出張の出発前、立ち寄った成田空港第1ターミナル内の書店で購入したのが大崎 善生「ディスカスの飼い方」です。中国・広州に向かう機内で読み切りました。
 観賞用熱帯魚で、その育て方の難易度が最高峰であるディスカス。その飼育の成功を目指すため、会社も辞めて没頭する主人公、涼一。そんな彼を受け入れられず、何人もの恋人が彼の元を去りました。様々な困難が眼前に立ちはだかる度に、6年前に別れた恋人、由真の声や言葉が彼の脳裏に甦るのでした。


趣味とテーマの狭間で...というか、ボリュームは明らかに前者に偏っている。

 大崎 善生らしい作品です。これまで読んだ「アジアンタムブルー」「スワンソング」「パイロットフィッシュ」と同じような雰囲気を持つ作品ですが、やや悲劇色の濃い結末だったのに比べると、ちょっと希望が見える作品でした。一方で熱帯魚の飼い方の説明が膨大な量になので、読者にテーマを考えさせる部分がちょっと弱いのかな、という印象を受けました。万人向けの小説ではありません。

2011.04.16

サクサク読めた「百瀬、こっちを向いて。」

 最近はなかなか読みたいと思う長編の作品がなくなってきました。こうなるともう短編にも手を出さざるを得なくなってきます。そんな中で手に取った作品が中田 永一の「百瀬、こっちと向いて。」です。
 尊敬する先輩に頼まれて、美少女・百瀬陽と恋人の振りをすることになった自分に自信のない「僕」。はじめは上手くかみ合わないのですが、交流を続けるうちに...「百瀬、こっちを向いて。」。家庭教師先の男の子を救おうとして5年もの間昏睡状態に陥った元高校生が目覚め、自分がかつて助けた青年と語り合う「なみうちぎわ」。女子高生と覆面作家である国語教師との交流を描いた「キャベツ畑に彼の声」。とある理由から"ブス"メイクで本当の姿を隠した女子高生と、軽薄な印象の同級生との触れ合いを描いた「小梅が通る」の4編です。 


1編は比較的短いのでサクサク読めました。でも印象には残りにくい。

 一編が短いのでサクサクと読めました。4編ともちょっと間が抜けたような雰囲気の中で、ちょっぴり切ない気持ちを表現していて面白かった。主人公の目線が妙に冷静なところは、瀬尾まいこ氏の作品に通じるところがあるように思えます。たまにはこういう読み方もいいですが、やっぱり長編が読みたいなぁ...。

2011.03.27

あれ?こんな話だったかな「活動寫眞の女」

 法事の帰省中に読んだのが浅田 次郎の「活動寫眞の女」です。実は10年ほど前でしたか、NHKでドラマが放映されていました。うろ覚えの記憶なのですが、ヒロインが舞い踊って口上を述べるシーンがとても印象的でした。最終回しか見なかったためにストーリーはわからなかったのですが...。
 学生闘争のまっただ中の昭和44年の京都で、新入生のカオルは映画館で医学部生の清家忠昭と知り合います。彼の紹介で太秦の映画撮影所でアルバイトをすることになるのですが、そこで二人は絶世の美女と知り合い、清家は彼女との恋に落ちます。しかし、実は彼女は30年前に亡くなっていた大部屋女優だったのです。事態はカオルと同じ下宿に住む早苗を巻き込み、不思議な結末へと向かって行くのでした。


ドラマは原作とは違う結末だったかな?

 読み終えて思ったのが「あれ? こんなラストだったっけ?」。もっとも曖昧な記憶ほど当てにならないものもないのですけれど。考えてみればドラマが原作と同じ結末となるとは限りませんし...。さて、ミステリー色がちょっと濃いような気もしますが、なかなか面白かった。浅田作品は時代背景をきちんと描写してくれるので、当時を知らない人間でも違和感なく読めるのがいいです。ページ数は多いですが、テンポよく読めるお勧めの一冊です。

2011.03.20

知られざる苦闘と悲劇「深海の使者」

 ちょっと趣向を変えて、どちらかというとノンフィクションに近いような作品を手に取りました。吉村 昭「深海の使者」です。新装版での登場で、新刊として紹介されていました。
 第二次世界大戦の潜水艦といえばドイツのUボートの活躍が有名ですが、実は日本海軍も有力な潜水艦部隊を擁していました。しかし、その活躍はあまり語られていません。太平洋戦争中期、日本は当時同盟国だったドイツからの技術導入を企てます。そこで白羽の矢が立ったのが潜水艦。南太平洋からインド洋を横断し、喜望峰を回ってフランスのロリアン軍港まで、米英に発見されることなく到達しなければならない。その知られざる苦闘と、航海の結末を淡々と綴った作品でした。


淡々とした描写が却って生々しい。

 久しぶりに重い作品を読んだという印象です。私は歴史の中に埋もれてしまっている事柄を掘り出した作品が好きなので、非常に読み応えがありました。

2011.03.06

ちょっと消化不良「僕の好きな人が、よく眠れますように」

 日曜日、移動や午後のひとときに軽く一冊読みました。中村 航「僕の好きな人が、よく眠れますように」です。
 中村氏の作品は理系の学生や若い会社員が主人公のことが多く、私の経験とオーバーラップすることも多いので、結構作品に入り込めるので好きな作家です。さて、今回はどうかな...。
 東京にある大学院で、修士2年の「僕」がいる研究室に、北海道から一人の同年代の研究者がやってきます。彼女は1年間、設備の整った東京の大学にゲスト研究員として通うことになったのでした。懇親会以降、急速に距離を縮めていく二人ですが、彼女にはつき合うことのできない事情があったのでした。


「100回泣くこと」は超えられなかったかな。

 んー、ちょっと消化不良かな。この後がどんなことになったのか知りたい気もするけれど、知らない方がいいような気もして複雑です。ただ、「こんな女の子本当にいるか?」という気がしなくもなくて、そこがちょっとひっかかりました。ある意味、理系人間にとってはこういうのが理想なのかも...?
 まずまず面白かったですけど、最初に読んだ「100回泣くこと」のインパクトがあまりにも強烈だっただけに、それを超えたとは言えなさそうです。次作にも期待しています。

2011.02.26

日本が一番勢いがあった時代「ワシントンハイツの旋風」

 土曜日、病院での待ち時間を有効に使おうと読んだ一冊がこれ、山本 一力「ワシントンハイツの旋風」です。これもかなり前に購入していながら読めていなかった作品です。
 昭和37年、主人公の一元謙吾は故郷の高知から、一足早く上京した母と妹を追って東京へと向かいます。新聞配達をしながら中学・高校と通い、様々な女性と巡り合いつつやがて旅行会社に勤めることになります。折りしも時代は高度成長期。オリンピック、大阪万博とビッグイベントが続く熱気の中、新聞配達で出入りした米軍住宅のワシントンハイツで覚えた英語が、思わぬところで彼の運命を切り開いて行くのでした。


熱のある時代とは、こんなものだったのか。

 「熱気のある時代」を描いた作品でした。終わり方がちょっと中途半端な感じがして、個人的にはもう少し主人公の行く先を見てみたかった気もします。ただ、一人の青年が最も勢いのある時代を駆け抜けたことを描いたと考えれば、なかなかに面白かったです。
 印象に残ったのは主人公の反骨精神。「恨み」ではなく、「いまに見てろ」という秘めた思いが次のチャンスへの原動力となるのでしょう。

2011.02.18

人と人との関係は一方通行ではない「風の音が聞こえませんか」

 出張のお供の一冊は小笠原 慧「風の音が聞こえませんか」です。ずいぶん前に購入していたのですが、なかなかまとまった時間がとれずに読めていませんでした。
 主人公は保健福祉センターに勤める新人ケースワーカー、川村美知。彼女はある母親からの相談で、精神を病んで妄想に苦しみ、引きこもりを続ける青年、杉浦晃の訪問指導を引き受けることになります。最初は拒絶されつつも、やがて彼の信頼を得て行く美知でしたが、ある事件をきっかけにやがて事態は意外な方向に向かって行くのでした。


なんだろう、幸せとは異なる「救い」を感じる。

 なかなかいいストーリーです。最後は思っていたような終わり方ではありませんでしたが、決してバッドエンドだとも思えず、むしろ「救い」が感じ取れました。人と人との関係は、決して一方通行ではない。与えるだけ、与えられるだけの関係ではないことを教えられたように思います。

2011.01.28

複数の視点から見た物語は難しかった「窓の魚」

 帰りの飛行機・バスで読んだ作品が西 加奈子「窓の魚」です。
 田舎の温泉宿にやってきた二組のカップル。ナツとアキオ、ハルナとトウヤマの物語。彼らはそれぞれに秘密を抱えていて、それを隠しあいながらつきあってきました。そして翌朝、一体の死体が宿で発見されたのでした。


一つの出来事を4人+αの視点で語る。初見では理解しづらい。

 難しい作品でした。一つの出来事を4人+αの視点で語るのですが、それぞれが何を考えながらその出来事を見ていたのかを覚えていないと世界がつながりません。このため初見では非常に理解しづらいと思います。もう少し時間をかけて何度も読んでみないと、本当の感想は語れそうにないです。

2011.01.24

薄っぺらさを感じた「夜の桃」

 またもや...のセレクトになってしまいました。今日の作品は石田 衣良の「夜の桃」です。正直に言えば私はこの作家の作品群はあまり好きではないのですが、登場人物の年齢が比較的近いこともあって手に取ってみました。
 主人公は時代をリードするIT企業の社長の雅人。彼は多忙な日々の中、妻と愛人との間を等距離外交でうまくやってきました。そんな中、彼の会社にアルバイトで入社してきた千映と知り合います。やがて新たな関係に発展し、最高のセックスパートナーとして徐々に彼の中で比重が大きくなっていく彼女の存在。そこに待ち受ける罠とは...。


「衝撃の恋愛小説」うん、確かに別の意味で衝撃かも。

 人物造形にかなり難があるので、感情移入どころか作品への入り込みも難しい。あんまり文芸作品という感じもしないので、私には薄っぺらさしか感じられませんでした。

2011.01.17

収束していく心地よさ「心に龍をちりばめて」

 私が好きな作家の待望の新作です。作品は白石 一文の「心に龍をちりばめて」。彼が書く作品は福岡を舞台にしたものが多いのですが、今作もそれは健在でした。
 東京でフードライターとして働く美帆。類い稀な美貌を持ち、収入も高い彼女は政治家を目指す恋人に結婚を申し込まれていました。そんな時、帰郷した彼女は幼い頃にみなしご同士で交流のあった優司と再会します。彼との交流の中で彼女は徐々に過去の自分のトラウマと記憶に向き合い、そして新しい選択をしていくのでした。


最後のシーンはとても思わせぶりです。

 今作はちょっとギミックに懲りすぎたのかな...という印象です。後から見ると色々なところに複線が散りばめられていて、そうつながるのか...と思ったところが多々ありました。ただしちょっとエピソードが多すぎて逆に散漫な印象がしてしまったのも事実です。
 「運命の相手を確認する瞬間」とは、意外に過去に遡ったところにあるのかもしれませんね。

2011.01.17

これってただの...では?「不倫純愛」

 久しぶりに落ち着いて読書できる時間が取れました。今年の一冊目は新堂 冬樹の「不倫純愛」です。この作家の作品は何冊か読んできていますが、ツボを押さえつつダークな物語は結構印象には残っています。注目すべきはそのブックカバー、間もなくこれを原作にした映画が公開されるそうです。
 主人公は出版社の編集長で四十歳代の京介。彼には美しい妻、真知子がいるのですが、彼女を大事に思うものの愛し合うことが苦しくなってきていました。そんな日常の中、彼は天才小説家である岡セイジに新作を書かせるべく、彼の秘書である澪香と協力して仕事を進めようとします。ところが、澪香が京介を誘ったことから事態は意外な方向に向かっていきます。一方、真知子はセイジと知り合い、一つの相談を持ちかけられるのでした。


いささか刺激的な見出し。タイトルと内容はいささか不一致?

 驚きました。実質的にほとんどポルノ小説です。ミステリーの要素はあるのですが、それも霞んでしまいそうなバランスの作品です。後味もあんまりよくないのでちょっと不満ですね。ただしハッピーエンドになりようのない展開なので、それは致し方ないでしょうけど。
 なんだかタイトルと内容が噛み合っていない印象がするのは、私だけでしょうか?